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チーム安倍の試練 -- 所得と貯蓄は増加、投資は減少
2016年08月15日
イェスパー・コール , ウィズダムツリー・ジャパン CEO


日本の2016年4-6月期のGDPデータは事実上、新年度の発足以降ゼロ成長が続いていることを裏付けるものだった。同時に、データの詳細な内容を見ると、将来の金融市場と政策の行方に影響を及ぼすとみられる複数の要因が浮かび上がってくる。

ポリシーミックスが住宅市場を押し上げ…

2016年4-6月期、民間住宅投資は前期比5.0%増(年率換算25%増)とGDP成長への寄与度が圧倒的に高かった。さらに重要なのは、2015年7-9月期以来、初めて住宅投資の伸びがプラスとなった点である。日銀の新たな政策がこの急回復のトリガーになったことに疑いの余地はない。今年1月末のマイナス金利導入後、住宅ローン金利は過去に例がないほど下落し、10年固定住宅ローン金利は2015年12月の1.4%から今年3月には0.7%へと大幅に低下した。

明らかな動き – 日銀の政策は住宅投資の押し上げに好影響、住宅価格を上昇に導く

不動産価格、特に住宅価格の持続的な上昇によるプラスの資産効果は消費者信頼感を持ち上げるとみられる。日本では事実上、一世代にわたって住宅価格デフレが続いた。住宅価格のインフレ期待を押し上げるには好転局面は依然として短いものの、日銀の対策が時を置かずして価格上昇をもたらした事実は、住宅・不動産関連のデフレマインドに対する戦いがさらに進むことを示唆している。

「チーム安倍」の評価すべき点 – 健全な景気対策の運営

全般的に、GDPデータは景気対策における政策決定の有効性について、非常に前向きなメッセージを発している。時宜を得た金融政策の実施に加え、財政政策の緩和も大きな成果を収めた。公共投資は4-6月期にGDPを年率9.5%押し上げた。これには安倍首相が2月半ばに打ち出した公共事業プロジェクトの「前倒し」が寄与している。

はっきり言えば、日銀の政策による住宅需要の押し上げと事業計画の前倒しによる公共需要の拡大がなければ、我々の見方では4-6月期のGDP成長率は-1.5~2%(年率換算)に落ち込んだと思われる。従って、良いところは率直に認めるべきであり、「チーム安倍」は効果的な短期景気対策の運営面で高い評価に値すると考える。

「チーム安倍」の是正点 -- 設備投資の低迷、持続可能な成長の不在

残念ながら、一方でGDPデータは民間企業を奮起させ、日本経済の長期的な成長性を促すという面で「アベノミクス」が事実上効果を発揮していないことが明らかである。企業部門の「アベノミクス」に対する反応は概ねネガティブである。設備投資は2四半期連続で減少し、4-6月期は年率換算で-1.5%となった。更に、機械受注や企業の借り入れ需要の伸びなどの先行指標は設備投資の見通しが引き続き暗いことを示している。この点は以下のような理由で厄介である。

第一に、設備投資は潜在成長率の回復にとって必要不可欠である。より生産性が高い優れた工場、オフィス、医療機関、物流センター、トラック、ITセンターなどの建設に投資する民間投資家やリスクテイカーがいなければ、日本の成長性と競争力の向上は望めない。民間企業投資が上向かないかぎり、「アベノミクス」は失敗に終わるだろう。

第二に、日本のポリシーミックス は依然として民間企業投資を押し上げるトリガーとはなっていない。法人税率の引き下げ(2016年度から実施)や前例のない負債コストの低下にもかかわらず、企業は国内投資とバランスシートのレバレッジを縮小している。「意味のない行為」、「バランスシート不況」、 「長期停滞」、 「脱工業化の罠」などと表現されるが、政策立案者が持続的な国内設備投資サイクルを喚起するツールを欠いている状況が続いているようだ。

もちろん、「チーム安倍」はこの問題を十分に認識しており、新たに積極的な取り組みを打ち出した。すなわち、今後は公共投資と財政政策を大幅に緩和し、景気を「てこ入れ」して民間投資拡大への道筋を示すというものである。8月2日に閣議決定された経済対策は、向こう15-24カ月で公的需要が総需要を約0.8~1.0%押し上げると推定される。

こうした新たな財政刺激策への取り組みが民間投資にプラスの乗数効果を及ぼし、潜在成長率を押し上げるか否かについては今後を待つ必要があるだろう。より楽観的になるためには、規制緩和や民営化に対する積極的かつ断固とした取り組み、さらには非中核事業や子会社の売却を促す具体的なインセンチブが必要である。後者は特に重要と思われる。多層構造で極端に複雑なビジネスモデルを理由に、多くの上場企業のバリュエーションは「コングロマリットディスカウント」の状態にあるためである。

所得は増加 – しかし、消費ではなく貯蓄を選好

個人消費の足枷となっているのは、貯蓄額の持続的な増加である。2014年7-9月期以降、四半期ベースの給与の伸びは一貫して個人消費の拡大ペースを上回っている。当時から2016年4-6月期までに、給与は9.5兆円(3.7%)増加したが、個人消費は1.5兆円(0.1%)の伸びに留まっている。確実に言えるのは、日本の個人消費が弱いのは賃金あるいは雇用が増加していないからではなく、消費者が予防的貯蓄を増やしているからである。エコノミストの立場から見ると、住宅投資の拡大はたしかに明るい材料だが、所得が増えているにもかかわらず支出が鈍化しているのは家計部門の信頼感が極めて低いことを如実に物語っている。

具体的には、「労働市場の軟化」という一般的な見方に反して、労働市場のひっ迫を背景に所得が一貫して伸びていることをGDPデータははっきりと示している。4-6月期の給与(賃金+雇用)は前期比0.3%増(年率換算1.5%増)となった。さらに重要なのは、労働者の購買力を示す最も優れた指標である給与は、名目では11四半期連続、実質では8四半期連続で上昇している。これは、大胆な労働市場改革を実施し、全産業で非正規雇用を認めた1996年以降では最も長い連続的な伸びとなっている。

先ごろ、日銀はGDPをベースとした個人消費の値が過小評価されている可能性を指摘した特筆すべきレポートを発表した(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ:2016年7月No. 16-J-9 藤原裕行、小川泰尭著「税務データを用いた分配側GDPの試算(日本語版のみ)」 http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2016/data/wp16j09.pdf )。従って、家計部門の購買力向上と実質的な消費のギャップは現行のGDPデータが示唆するほど大きくはないかもしれない。

しかし、「チーム安倍」へのメッセージは変わっていない。家計部門は労働市場の極めて良好な需給状況の恩恵を受けており、購買力は過去1年半で3.7%増とここ20年間で最も力強く伸びている。ただし、将来に対する不安感の増大を背景に消費よりも貯蓄を選好する傾向が強い。将来を心配する理由は数多くあるが、政策立案者は信頼性と持続性が高い年金・医療制度の構築に向けて改革を迅速に進めることで貯蓄率の上昇に対処し、財政の安定化を目指して現実性の高い計画を実行すべきである。「チーム安倍」は包括的かつ信頼に足る給付金制度の改革計画の実施を迫られている、と我々は見ている。

加えて、マイナス金利のパラメータを踏まえると、政策立案者は国内金融サービス業界に対してこれまでより透明性が高く、コスト効率が優れた投資商品を開発・提供する努力の強化を促すべきであろう。よりダイナミックで最終投資家を重視した金融サービス業界の実現に向けて進まなければ、新たに増えた貯蓄の大半はほとんどゼロ金利の預金に回る結果に終わるとみられる。

結論 – 政策調整は進行、しかし日銀単独の政策では不十分

いつものことながら、金融市場はこうした状況が中央銀行の政策にどのような影響を及ぼすのか注目している。我々の見るところ、メッセージは非常に明白である。日銀の政策は特に住宅市場に対して好影響を与える。このプラス効果を企業にまで広げるには、日銀の政策だけでは不十分である。企業に日本国内への再投資を促すためにはより具体的なツール、つまり新規投資奨励策、規制緩和、民営化に加え、利益を生み出していない遊休資産や「ゾンビ部門」を保有する企業に対して「罰則」を科す必要があるだろう。9月の日銀レビューに関し、この点は非対称リスクを示唆している。すなわち、「チーム安倍」に信頼性のある投資重視の成長戦略の実行を迫る以外には大胆な追加対策は期待できない。

 

 


この記事に関連する重要なリスク

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